事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

大塚隆史『ONE PIECE STAMPEDE』

 

私は、『ワンピース』という漫画を読んだ事がない。アニメすらちゃんと観た記憶もない。登場人物の名前も、主人公のルフィしか知らない。要するに、この映画を観る資格など無い人間なのだが、小学5年生の息子に付き合って観に行く事になった。

どうやら本作は過去のエピソードに登場したキャラクターが一堂に会して強大な敵と戦うという、『アベンジャーズ』の様なストーリーになっていて、ファンにとっては感涙ものの作品らしい。

しかし、私にはもちろんほぼ全員が初見である。必要以上にアクの強いキャラクターが次々と登場するが、何の思い入れも無いのでただ網膜の上を通り過ぎるだけである。ただ、誰がどう見ても勝新太郎田中邦衛にしか見えないキャラクターが出てきた時はびっくりした。しかも、勝新の方は明らかに座頭市みたいな格好をしている。これは、一体どういう事なのだろうか?別にその後、大映東映やくざ映画にオマージュを捧げたシーンがある訳でもない。スクリーンを見つめる子供たちはどう思っているのか?後で息子に訊いてみたが、「はあ?」と不得要領な顔をされただけだった。

という訳で、本作について書く事はもう何も無い。もちろん、これは私が悪いのだろうが、それにしたって私と同じ様な立場の親御さんも沢山いる訳で、もう少しその辺に気配りがあってもいいんじゃないかと思う。いや、もしかすると、さっきの勝新田中邦衛が私の様な人間に対するサービスなのだろうか?ますます、本作の立ち位置が分からなくなった。

後、主人公と敵がガチンコの殴り合いをしている最中、いちいち相手に向かって説教をするのは何なのだろう。誰も一人では生きられないとか、そんな甘い考えじゃ生きていけないとか…そういうのはいらないと思うけどなあ。主人公がさっきまでボコボコにされていた敵に逆転勝ちをする過程でのロジックが無く、結局は正しい考えを持っている人間が強い、みたいな平板な価値観しか感じられないんだよね。世の中、そんなに甘いもんじゃないよ!現実には、やりたい放題で私腹を肥やす安倍みたいな奴が一国の総理大臣にまで上り詰めてるんだから!庶民がどうあがいたって巨大な権力を持った奴に踏み潰されるのがオチなんだ。そうした理不尽さに打ち勝つ為には、全く非合理で正しさのかけらも無い暴力が必要だという事をもっと子供たちに教えた方がいい。

 

あわせて観るならこの作品

 

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田中邦衛が完全に頭のイッたヤク中を大熱演。渡哲也が演じる主人公、石川力男はまさに非合理で正しさのかけらも無い暴力を体現した存在。これだけ観客の感情移入を拒否する映画も珍しい。