事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ジョルジュ・シュルイツァー『ザ・バニシング-消失-』

 

ザ・バニシング -消失-(字幕版)

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  • 発売日: 2019/12/11
  • メディア: Prime Video
 

映画の冒頭、恋人サスキアとドライブ旅行に出かけた主人公レックスは、トンネルの中でガス欠を起こしてしまう。不注意をなじるサスキアに腹を立てたレックスは、彼女をトンネルの中に置き去りにしてガソリンを調達しにいく。やがて、ポリタンクを抱えてレックスが戻ると恋人は姿を消していた。

この映画を観て、ラストで肩すかしを喰らった方々が少なからずいる様だ。つまり、犯人がサスキアを誘拐した後、彼女をどんな目に遭わせたのか、それこそレックスが3年間追い求めてきた謎なのだが、映画がその謎を全て説明してしまう事で、序盤から中盤にかけての不気味なムードが台なしになった、という不満である。

忠告しておくが、そうした感想を抱いた人は将来、サイコパスに誘拐されて酷い目に遭う可能性があるので気を付けた方がいい。サスキアの運命をレックスが追体験する事で、映画の真相が明かされたと考えるのは、犯人がレックスに嘘をついていない、という前提を無自覚に受け入れているからだ。映画が始まってから、犯人はほとんど嘘しかついていないのに、である。執拗に犯人を追うレックスが邪魔になり排除しようと思ったにせよ、律義に約束を守る必要など犯人には無い。最後ぐらい本当の事を話してくれるだろう、と考えるのは振り込め詐欺の被害者と同じぐらい安易な態度と言わざるを得ない。

冒頭の場面では、レックスはトンネルを抜ける事でサスキアと再会する事ができた。しかし、最後に彼がはまり込む「闇」には、光をもたらす出口など存在しない。レックスは真実に辿り着く事すら許されず、絶望に打ちひしがれながら朽ちていくだけである。ならば、映画館という「闇」に閉じ込められた私たちもまた、同様の運命を辿るしかない。キューブリックが恐怖を感じたのは、自らもまた「闇」に閉じ込められている事をありありと実感したからである。

 

あわせて観るならこの作品

 

殺人の追憶 [Blu-ray]

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モヤモヤするサイコサスペンスといえばこちら。ボン・ジュノ監督が事実を基にした戯曲を映画化。加害者と被害者の(意図しない)共犯関係が薄っすらと見える不気味さ。

 

失踪 [DVD]

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 ハリウッド版セルフリメイク(未見)。ラストが改変され、あまり評判は良くないらしいが。