事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ステファノ・ソッリマ『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』

 

前作を含む「辺境三部作」を終わらせたテイラー・シェリダンの新作は『ボーダーライン』の舞台を再利用しつつ、黒澤明にオマージュを捧げた『荒野の用心棒』ならぬ『メキシコの用心棒』である。監督にイタリア人を選んだのも、マカロニ・ウエスタン的な雰囲気を期待しての事かもしれない。偽装工作によって麻薬カルテル間の抗争を引き起こし同士討ちを狙う、というのがCIA特別捜査官マットらに与えられた任務だが、これがどう見ても違法行為の連続で、現実のCIAがこんな桑畑三十郎みたいな事をする筈がない。ぶっちゃけ『用心棒』的展開にもっていく為の方便に過ぎないのだ。冒頭の凄惨なテロ描写は「麻薬組織=テロリスト」という構図を提示する事によって、この無茶苦茶な作戦に米国政府がお墨付きを与える理由を説明している訳である。映画の中盤あたりから観客の思ってもみなかった方向へ舵を切るのがテイラー・シェリダンの脚本の特徴だが、今回は『用心棒』から『隠し砦の三悪人』の様なロードムービー的展開へと移行していく。その為、前作終盤のカタルシスを期待していた向きは肩すかしをくらった気になるかもしれない。