事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

テイラー・シェリダン『モンタナの目撃者』

山火事と消防隊員という魅力的な設定を活かした見せ場のないのが物足りない

深い雪に覆われた山岳を舞台にしたスリラー『ウインド・リバー』に続くテイラー・シェリダンの監督2作目はアンジェリーナ・ジョリーを主演に迎えた、サスペンス映画とディザスタームービーをミックスさせた様な一風変わった作品である。以下、簡単にあらすじを紹介しよう。
森林消防隊員であるハンナは、かつて山火事から子供たちを救えなかった苦い記憶を持ち、自分を責めながら職務を続けていた。彼女はある日、森の中に迷い込んだ少年コナーと出会う。コナーの父親はある汚職事件に関わった為に何者かによって殺され、少年は命からがら森まで逃げ延びてきたのだ。追手たちから少年を守ろうと決意するハンナ。しかし、突然発生した未曽有の山火事が彼女の行く手を遮るのだった―
このあらすじから連想した先行作が私は2つあった。ひとつはジョン・カサヴェテスの『グロリア』。これもマフィアに父親を殺された少年と偶然に知り合った女性の逃走劇を描いた映画だった。もうひとつは、レニー・ハーリンの『クリフハンガー』。こちらは、山岳救助隊員の主人公が雪山の中で犯罪集団と戦うアクション映画である。前者はともかく後者を持ち出したのに違和感を覚える方もいるかもしれないが、要するにプロの犯罪者に対して救助隊員が地の利を活かして戦う、みたいな話を予想したのである。確かに、『クリフハンガー』の主人公ゲイブはシルベスター・スタローンが演じているのでどう見たって只者ではない訳だが、基本的には山岳救助活動で得た経験や知識を駆使して銃器を持った犯罪者に対峙していく。本作のアンジェリーナ・ジョリー演じるハンナにもそうした役回りを期待した訳だ(救助活動の失敗によって人を死なせてしまった過去がトラウマになっている、という設定も似ているし)。
しかし、『モンタナの目撃者』における山火事は『ウインド・リバー』の氷原と同様、あくまでドラマの背景として導入されたに過ぎない。過酷な自然風景と醜い争いを繰り返す人々の荒廃した姿を対比させよう、という作り手の意図は分かるのだが、例えば風向きから火の広がり方を予想して行き先を決めるとか、敵に罠を賭けて火の中に突き落とすとか、そういう山火事と消防隊員という設定を活かしたシチュエーションが全く無かったのは残念である。アンジェリーナ・ジョリーの熱演にもかかわらず、主人公ハンナのキャラクターが今ひとつ立っていないのは、彼女が消防隊員として得た経験や知識がほとんど活躍の場を見せないまま映画が終わってしまうからではないか。
その為か、脇役である筈のメディナ・センゴア演じる保安官の妻アリソンの方が印象に残ってしまった。彼女は身重の体でありながら、悪漢の手から夫を救い出す為に猟銃を片手に馬を乗り回すのだが、このキャラクターが最高に格好いいのだ。おそらくは『女ガンマン 皆殺しのメロディ』のラクエル・ウェルチからインスピレーションを得たのだろうが、正直、このアリソンを主人公にしたスピンオフ作品が観たいと思ったほどである。

 

あわせて観るならこの作品

 

ラクエル・ウェルチ主演のマカロニ・ウエスタン風西部劇。全裸にポンチョ、テンガロンハットという女ガンマンの姿が大きなインパクトを与えた。クェンティン・タランティーノの『キル・ビル』にインスピレーションを与えた事は有名。