事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

スティーヴン・S・デナイト『パシフィック・リム アップライジング』

 

前作『パシフィック・リム』発表時の興奮と、実際に映画を観終わった時の「う、うん…まあ…」という微妙な空気は今でも印象に残っている。

ギレルモ・デル・トロに絶大な信頼を寄せる映画ファンは、そのオタク趣味が爆発したロボットアニメ実写版が作られると期待していた筈である。その期待を裏切った、とは言わない。巨大ロボイェーガーや怪獣のデザインはさすがとしか言いようがなかったし、胸が熱くなるようなドラマも用意されていた。
しかし、『パシフィック・リム』はデル・トロが手掛けた娯楽作品『ブレイド2』や『ヘルボーイ/ゴールデンアーミー』と同じく、徹頭徹尾「夜」の映画として撮られていたのだ。そこではイェーガーも怪獣も、夜の闇を跋扈する異形の存在として描かれている。日本のロボットアニメや怪獣映画がロボットや怪獣のディテールを目立たせる為、「真昼」を舞台に選んでいる事を考えると、これはいかにも相性が悪い。その意味で『パシフィック・リム』はやはり、デル・トロ監督得意のダークファンタジーの文脈で語られるべき作品だったのである。
さて、5年後の続編である本作では、監督が交代し今後のシリーズ化も目論まれている関係上、その方向性が大きく変更されている。もっとイェーガーや怪獣を目立たせる為、「夜」から「真昼」の映画へと変貌を遂げているのだ。端的に言って、本作のビジュアルは非常に明るい。陽光の降り注ぐ大都会を舞台に、イェーガーや怪獣の激闘、それによって引き起こされる破壊描写をきっちりと―『トランスフォーマー』の様なめちゃくちゃなアクション描写で観客を混乱させずに―描ききった制作陣の手腕は評価すべきだろう。デル・トロの作家性が失われ、分かりやすいエンターテインメント作品へ変貌を遂げた事に寂しさを感じる向きもあるかも知れないが、そもそもこの様な形でしか『パシフィック・リム』の続編は作り得ないのではないか、という気がするし、傑作『ブレイド2』の後を引き継いで何もかも中途半端な出来になった『ブレイド3』と比べればはるかにマシである。