事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

アレハンドロ・ホドロフスキー『エンドレス・ポエトリー』

 

エンドレス・ポエトリー 無修正版 [Blu-ray]
 

ホドロフスキーというと『エル・トポ』ぐらいしか観ていないのだが、まさか50年近く経ってなお、過去の代表作に引けを取らないほどイマジネーション豊かな新作を拝めるとは。邦題通りまさに「終わらない詩情」である。死を予感せざるを得ない老境に達した作家が自らの半生を思い返し、若かりし頃の自分を見つめ、時には優しく語りかける。その視線の先には、彼と同じ様に生きる事の苦しみや死への不安を抱く私達がいるのだろう。限りなくプライベートな作品であるのに、それが観客の心にしっかりと響くのは、ここには何ひとつ嘘が描かれていないからである。現実と虚構が入り混じった、シュールレアリスティックな映像美に戸惑う人がいるかもしれないが、少なくとも若かりし頃のホドロフスキーには、世界がこの様に見えていた筈だ。私達が彼ほどの歳を重ねた時、これほどまでに真摯な眼差しを自らの半生に向けられるだろうか。