事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

吉田大八『羊の木』

 

羊の木(Blu-ray豪華版)(Blu-ray+2DVD)

羊の木(Blu-ray豪華版)(Blu-ray+2DVD)

  • 発売日: 2018/08/29
  • メディア: Blu-ray
 

タイトルは「スキタイの羊」「バロメッツ」とも呼ばれる、かつてヨーロッパや中央アジアに生息するとされていた伝説の植物から採られている。

羊の木には、茎から子羊が直接生えているタイプと、茎になった実から子羊が生まれてくるタイプの2パターンがあるらしいが、本作では市川実日子が玄関に飾る皿に描かれているとおり、前者のタイプを採用している様だ。子羊たちは、へそと繋がった茎から栄養を摂取するが、その茎から切り離されると死んでしまう。子羊たちにとって茎とは命の糧でもあり、自らの行動を縛る鎖でもある訳だ。
過疎化の進む漁村に10年間定住する事を強いられた6人の受刑者たち。彼らは、定職と住居を与えられ、更生の道を歩みだすが、その表情は一様に暗い。結局、6人にとってこの漁村は規模を拡大した刑務所に過ぎず、自らが犯した罪と向き合いながら、10年もの間、単調な日々を過ごさねばならない。果たして、彼らの犯した罪は、この様な罰を受けねばならない程、重いものなのか。この無限とも思える時間の中で、罪を犯した哀れな子羊たちに救いはもたらされるのだろうか。
深遠なテーマとエンターテイメント性を両立する絶妙な語り口、登場人物が一堂に会する奇妙な祝祭空間、ドストエフスキーの小説が好きな人にぜひ観て頂きたい秀作である。クセのある俳優たちに引けを取らない、錦戸亮の受けの演技の見事さに舌を巻いた。