M・ナイト・シャマラン『スプリット』

スプリット [Blu-ray]

多重人格者が犯人役のサイコサスペンス、というのは、シャマランが敬愛してやまないヒッチコックの『サイコ』以降、数えきれないほど作られてきた訳だが、注目したいのは、本作が人格の転移と肉体の変容を強引に組み合わせる事で、凡百のサイコパスなどとは比べようもない、人間離れしたヴィランを生み出した事だ。本作が『アンブレイカブル』同様、マーベルやDCコミックス原作のアメコミ映画を意識している事は明白であり、緊迫感溢れるサイコサスペンスとして幕を開けた本作は、終盤に至ってアメコミ的なダークヒーロー誕生譚へと変貌する。スパイダーマンやバットマンに登場するヴィランには、彼らを悪の異形者へと追い込んだ過去＝トラウマが常に存在する事を思い出して頂きたい。つまり、サイコサスペンスでは犯罪を引き起こす要因に過ぎないトラウマが、アメコミ映画ではヒーローの輝かしい聖痕となるのであり、終盤のヒロインと犯人の「共鳴」もその様に理解すべきだろう。言わば、映画のジャンルが途中で「転移」してしまった訳で、本作はその様な意味においても「多重人格」的な性質をまとっている。