事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

グザヴィェ・ドラン『たかが世界の終わり』

 

たかが世界の終わり [Blu-ray]

たかが世界の終わり [Blu-ray]

  • 発売日: 2017/09/06
  • メディア: Blu-ray
 

12年ぶりに帰郷した劇作家が、家族を前に帰郷の理由を説明しようとした途端、兄の暴力的で強引な介入により、無理やり話を中断させられ遂には追い返されてしまう、という終盤の展開に、観客は呆気にとられた筈だ。何しろ、映画冒頭に暗示されていた主人公ルイの秘密が告白される場面をクライマックスに期待していたからこそ、1時間以上に及ぶ退屈で微温的な会話シーンを耐え忍んできたのだから。秘密の告白によって一気にひっくり返される為でなかったら、あの会話場面には何の意味があったのか。いや、あれは会話と呼べる様なものではなかったのかもしれない。そもそも、12年間も会っていない都会に住む新進の劇作家と田舎暮らしの家族に共有できる話題などある筈がないのだ。だから、彼らはひたすら一方的に自分の事を喋り続ける。相手が聞いていようがいなかろうが構いはしない。その意味で、彼らの会話はダイアローグではなく、単なるモノローグに過ぎないのだ。時間の空隙を埋めようとするかの様な、虚しい言葉のやり取り。それに苛立ちを隠せないのが、ルイの兄アントワーヌである。彼だけが、家族のモノローグに茶々を入れ、否定し、強引に中断させ、ダイアローグに引きずり込もうとする。しかし、その試みは最後まで成功する事はない。結局、家族はまた繰り返されるモノローグの中に閉じこもってしまうのだし、自らの独白の機会を奪われたルイは、兄との対話に臨む訳でもなく、ただ背を向けて永遠に去っていく。彼が立ち去った後には、永遠の喪失を告げるかの様に、小鳥の死骸が無残に横たわっているだけだ。