オタール・イオセリアーニ『皆さま、ごきげんよう』

皆さま、ごきげんよう [DVD]

いかにもイオセリアーニらしい、人を食った様な演出と筋運びだが、とりあえず確認しておきたいのは、この映画の登場人物たちは、空間と時間を自由に行き来する能力を持ち合わせている事だ。扉の隙間を通るには身体をぺしゃんこにすれば良いし、マンホールに落ちたのなら、そのままどこか見知らぬ場所まで下水道を滑り落ちていけば良い。何も無い筈の石壁に、夢の庭園へと誘う扉が突如現れるかもしれない。まるでローラースケートでパリの街を駆け回る少女たちの様に、人々は軽やかなフットワークを備えている。その足取りは数百年、数十年の時間的隔たりすら飛び越えてしまうだろう。冒頭のパリ革命やコーカサス戦争のエピソードに登場した人々が、現代のパリに立場を変えて現れるのを見て、私たちは輪廻転生という言葉を思い浮かべてしまうのだが、それよりも歴史、という動かしがたい時間の集積に、映画という虚構の時間を挿入して内から食い破ろうとする、作り手のポジティブな意思を感じ取るべきなのかも知れない。