事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ジョニー・トー『ホワイト・バレット』

 

ホワイト・バレット [DVD]

ホワイト・バレット [DVD]

  • 発売日: 2017/04/05
  • メディア: DVD
 

ハラハラと手に汗を握り、クスクスと笑いを噛み殺しながらの80分だった。

クライマックスの悪い冗談としか思えない、壮絶な長回しアクションシーンに『キングスマン』を思い出したが、あの映画の教会シーンは、1人がその他大勢を順番に皆殺しにする「殺陣」を極め尽くした様な内容だったのに対し、本作で描かれているのは生者と死者が混在するカオスな空間である。

それを戦場と呼ぶとすれば、映画における戦場で生者と死者を分ける条件は恣意的なドラマツルギーにしかあり得ない。いくら、その戦闘描写がリアルに描かれていたとしても、劇映画にとって必要な人物は生き残り、どうでもいい端役は死んでいく、という作り手の都合が介在する以上、それは極めてフィクショナルな空間なのだ。縦横無尽に銃弾が飛び交う中で、手術の失敗により手足が麻痺してしまった患者には全く弾が当たらず最後まで生き残ってしまう、という信じ難いご都合主義。勿論、これはジョニー・トーが映画における戦場の虚構性に意識的であるからこそ挿入し得たギャグである。そもそも、病院とは生者と死者が交錯する空間ではあるが、映画を見終わった観客はクライマックスのアクションシーンを境に、生者と死者(=強者と弱者)の役回りがそっくり入れ替わってしまった事に気づくだろう。