事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

イエジー・スコリモフスキ『イレブン・ミニッツ』

 

イレブン・ミニッツ [Blu-ray]

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いわくありげな人物が多数登場し、視点が次々に移っていく群像劇だが、個々のエピソードが最後に収束し、隠されていた謎が全て明らかになる、などというカタルシスは全く無い。何しろ、物語背景や登場人物達の過去など、私達が安心して映画を観る為に必要なデータを、本作は与えてくれないからだ。個々の欲望や感情に突き動かされる様に行動する人々の、時間と空間が重なり合う地点で映画は衝撃的な結末を迎える。しかし、そこで起こった悲劇に天罰といった意味を読み取るのは間違いだろう。それは、並走するプログラムがたまたま干渉しあって生じたエラーの様なもので、意義も理由も何も無いからだ。例えば、私達が何らかの災厄に見舞われた時、それがなぜ自分の身に降り掛かったのか、最初から最後まで筋道だった解答を得る事は不可能である。その「なぜ?」は誰も認識する事のできない、欠落として存在し続ける。もちろん、映画は冒頭からその欠落を、空にぽっかりと空いた穴として観客に提示し続けていた筈だ。78歳とは思えない、エッジの効いた画作りと、音楽の使い方がお見事。ポール・トーマス・アンダーソン監督『マグノリア』と合わせて観たい。