マノエル・ド・オリヴェイラ『アンジェリカの微笑み』
死者にカメラを向けてファインダーを覗いた瞬間、死者が目を開き優しく微笑む。その笑顔に魅了されたカメラマンが、対象の存在しない恋愛に煩悶しやがて破滅に至る。たったこれだけの筋書きで映画になってしまうのは、オリヴィエラの手腕もさる事ながら、カメラを通した対象との関係性が、映画と観客のそれと重なり合うからだろう。私達が暗闇の中でスクリーンを見つめる時、映し出された対象は既に存在しない。つまり、映画を観るという行為は、存在しない死者たちの振る舞いを見つめ魅了される事に他ならない。