事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ショーン・ベイカー『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

 

舞台はフロリダ州キシミー。ディズニーランドの周辺には観光客を目当てに多くのモーテルが建てられていたが、サブプライムローン危機以降に広がった貧富の格差のせいで、モーテルはいつしか住宅を持つ事も借りる事もできない貧困家庭の住処となっていた。

夢と魔法の国の間近に住みながら、そこには決してたどり着く事のできない人々の過酷な生活を、ショーン・ベイカーはカラフルな色彩と緻密な画面構成で描いていく。貧しい暮らしの中で生の喜びを爆発させる子供たちの演技が素晴らしい。資本主義社会のひずみが生んだあまりにも醜い現実。その中で生き抜こうとすれば、時には罪に手を染めねばならない事もあるだろう。どこぞの馬鹿どもの様に、そうした行為を肯定的に描いている本作を非倫理的だと非難する向きもあるかも知れない。
しかし、そもそも私たちを縛ろうとする倫理とはいったい何なのだろうか?人は、お仕着せの倫理を守る為に生きているのではない。もがき苦しみながら歩み続けるその道筋の中に、それぞれが守るべき倫理が生まれてくる。ラストシーンで疾走する子供たちがたどり着く場所は、資本の論理によって肥大化した夢と魔法の国ではない。マジックバンドをいくつ持っていても入る事のできない、彼女たちの為だけにある倫理的な世界なのだ。