事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ジム・ジャームッシュ『パターソン』

 

パターソン [Blu-ray]

パターソン [Blu-ray]

  • 発売日: 2018/03/07
  • メディア: Blu-ray
 

恥ずかしながら、ジム・ジャームッシュの映画は、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』と『ダウン・バイ・ロー』、『ミステリー・トレイン』しか観ていない。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を観て、何となく、ああミニマリズムとはこういうものを指すのかな、という感想を抱いた。ミニマリズムとは、色彩や形態などの装飾的要素を最小限にまで抑えた創作理論だが、音楽においては、同一のパターンをひたすら反復するという手法がよく見られる。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』でも、後部座席から運転席を写した車中のショットやブラックアウトによるシーンの切り替えが全編を通じて反復され、それが独特のリズムを生み出していた。基本的に、本作も同様の構造である。主人公に、毎日同じ時間に同じ経路を運行するバスの運転手を選んだ事で、物語レベルにおいてもその反復性は強められている。しかし、ミニマリズムとは単に創作物から劇的要素を奪い、単調な反復を繰り返すだけのものではない。相似したパターンが反復される事で、人はその繰り返しの中に生じた微細な変化に敏感になっていく。特別な事の何も起きないありふれた暮らしの中で、不意に聞こえてくる誰かの呟き。知り合いが時に垣間見せる、意外な横顔。自分の知らない時間、知らない場所で起こった些細な変化がさざ波となり、いつしか自分の周りに押し寄せ、やがて見慣れた風景を一変させる。

-だけど意思は言葉を変え 言葉は都市を変えてゆく-(小沢健二『流動体について』)