事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ブライアン・フィー『カーズ/クロスロード』

 

ライトニング・マックイーンの物語としては、この様な終わり方がベストな選択なのだろう。『クリード チャンプを継ぐ男』と同じく、テーマは老いと継承。ピークを過ぎたチャンピオンが才能あるルーキーと出会い、自らの意志を受け継ぐ後継者を育てていく、といった筋書きなのだが、私は少々脚本が乱暴過ぎる様な気がした。まず、後継者たるクルーズに、マックイーンほどの才能がある様に感じられない。彼女は終始トラブルメーカーとしてしか描かれず、レーサーとしての潜在能力を示すエピソードが劇中で全く示されないので、クライマックスの覚醒が唐突過ぎる様に感じてしまう。そもそも、第1作目は、傲慢な性格だったマックイーンが、様々な仲間と出会い精神的に成長する事で、レーサーとしてひと回り大きくなる、という構成だった。しかし、今作でマックイーンが勝てなくなった理由は、高性能な次世代マシンの登場、という単純な(だからこそ乗り越えがたい)現実なのである。この状況をひっくり返すには、それなりの映画的仕掛けが必要だろう。それこそ『ロッキー』の様に猛特訓したから勝てました、というのでは説得力が無い。何しろ、彼らは性能だけがものをいうレーシングカーなのだから。しかも、その特訓場面すらドタバタコメディに振りすぎてまともに描かれていないのである。ここに作り手の迷いを感じた。具体的なエピソードで観客を納得させられない為か、登場人物たちは己の過去や心象を滔々と語り、言葉が映画の空隙を埋めていく。ピクサー社らしからぬテンポの悪さである。