事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ジョン・リー・ハンコック『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』

 

世界最大のフランチャイズ企業であるマクドナルド社の「いかがわしい出自」を暴いた事だけが、この映画の肝ではない。それなら単に社会正義を振りかざしただけの退屈な作品になっただろうし、そもそもこんな昔の話を蒸し返したところで、マクドナルド社にとっては痛手でも何でもないだろう。問題は、『創業者』という原題が示す通り、私達が生きる大量消費社会において、「起源」というものは存在するのか、という事なのだ。本作の主人公クロックは、自身がマクドナルド社の「創業者」ではない、という事実に最後までコンプレックスを感じていた。しかし、その様な「起源」への欲望は、アメーバの様に拡散し増殖する資本の波に飲み込まれ、やがて意味を失ってしまう。マクドナルド社の今日の発展は、ハンバーガーの発明者である兄弟2人のおかげでも、経営者だったクロックのおかげでもない。資本を喰らう事で更なる資本を生み出す、マクドナルドという名のウロボロスの蛇がひとりでに育っていったのだ。そこに集う人々は、ハンバーガーやポテトではなく、既に「マクドナルド」という「名前」を消費しているに過ぎない。本作に「教会」や「聖書」といった宗教的モチーフが散見されるのも、その様な意味で示唆的である。キリスト教に限らず、宗教とは神の「名前」を消費する人々の集いだとも言えるからだ。