ベン・ウィートリー『ハイ・ライズ』

ハイ・ライズ[Blu-ray]

外界から隔絶されたタワーマンションを、階級社会の縮図とし、各階層の住民同士のいさかいを階級闘争として描く、とそれだけとれば分かりやすい話なのだが、マンション内の混乱が進行するにつれ、いさかいの原因であった格差そのものが解消されてしまう点が面白い。上層階＝ブルジョア、低層階＝プロレタリアという単純な構図は消え、住民たちは場当たり的な衝動に駆られるまま、終わる事のない闘争に身を投じていくのであるどれだけ不便になってもマンションを出ていこうとすらしない登場人物たちの行動に違和感を覚える方も多いだろうが、いっその事、この映画の主役をマンションという巨大生物だと捉えてみてはどうか。そこで暮らす人々はマンションの体内で活動する細胞であり、彼らの生や死にはそもそも理念や意義など存在しない。単に、マンションの新陳代謝として細胞同士の闘いが繰り返されるだけなのだ。全体的に美術が素晴らしく抽象性の高いJ・G・バラードのディストピア世界を上手く再現していると思う。