事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ギャスパー・ノエ『CLIMAX クライマックス』

 

CLIMAX クライマックス Blu-ray 通常版

CLIMAX クライマックス Blu-ray 通常版

  • 出版社/メーカー: Happinet
  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: Blu-ray
 

本作のサントラを見るとAphex TwinやDaft Pank、懐かしいところではGiorgio MoroderやGary Numan、Soft Cellなんて名前が並んでいる。本作の舞台は1996年なので、楽曲については、その当時流行していたフレンチ・ハウスが採用されている様だが、それ以外にギャスパー・ノエ自身が好きな曲も混じっているのだろう。
音楽だけに限った話ではない。映画の冒頭、ダンサー達のインタビュー映像が流れるTVの横には、様々な本やDVDが積み重ねられているが、これは全て監督自身の私物らしい。これまで問題作を発表し続けてきたギャスパー・ノエは、どの様な作品から影響を受けたのか。非常に興味をそそられるものの、横文字に弱い私には具体的にどんな作品が並べてあるのか、画面を観ただけでは判別するのが難しい。困ったなあ、と思っていたら、ありがたい事にとあるブログでそのほとんどをリストアップしてくれていた。そこから本作にインスピレーションを与えたと思われる作品をピックアップしてみよう。書籍では『善悪の彼岸ニーチェ)』『日常生活における精神病理(フロイト)』『眼球譚バタイユ)』『変身(カフカ)』といったあたり。DVDでは『ポゼッション(アンジェイ・ズラウスキー)』『ソドムの市(ピエル・パオロ・パゾリーニ))』『アンダルシアの犬(ルイス・ブニュエル)』『サスペリアダリオ・アルジェント)』『ゾンビ(ジョージ・A・ロメロ)』などである。
このラインナップから本作の概要をまとめてみれば、閉鎖空間を舞台にしたサバイバル・ホラーのフォーマットに、ダンスや薬物を媒介とした自我の消失、禁忌からの解放、暴力や性に対する潜在的欲望の発露を、ある面では病理として、ある面では超越性への足掛かりとして捉える、といったテーマを盛り込んでいるのだろう…何だか身も蓋もない話になってしまったが、こうした他愛もないと言えば他愛もないテーマを、露悪的で装飾過多な演出でデコレートし、フリーキーな夢幻的世界を作り上げる事こそが、ギャスパー・ノエにとっての映画表現なのである。その稚気溢れる語り口は、彼が敬愛してやまないルイス・ブニュエルに近いのかもしれない。正直、カメラを動かし過ぎて何が何だかよくわかんねえよ、というシーンもあるにはあったが、とにかく唯一無二の体験が味わえる97分間ではあった。

 

あわせて観るならこの作品

 

サスペリア [Blu-ray]

サスペリア [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2019/07/02
  • メディア: Blu-ray
 

劇中に登場したのはオリジナル版のDVDだが、赤いライトに染め上げられたクライマックスシーンなど、今作はルカ・グァダニーノによるリメイク版にも雰囲気が似ている。以前に感想も書いています。

 

皆殺しの天使 HDマスター [DVD]

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  • 出版社/メーカー: IVC,Ltd.(VC)(D)
  • 発売日: 2015/08/31
  • メディア: DVD
 

ギャスパー・ノエの敬愛するルイス・ブニュエルの、メキシコ時代の傑作。不可解な理由によってパーティから帰れなくなった人々のユーモラスな姿を通じて、荒々しい暴力の生まれる瞬間を描く。不穏なラストシーンが印象的。