事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

アレクサンドル・アジャ『ルイの9番目の人生』

 

ルイの9番目の人生 [DVD]

ルイの9番目の人生 [DVD]

  • 発売日: 2018/08/08
  • メディア: DVD
 

この映画、ネタバレせずに語る事がかなり難しい。終盤に明かされる真実に向かって物語が集約され、そこから作品のテーマが浮かび上がってくる構成になっているからだ。その為、曖昧な書き方しかできないのだが…
冒頭で語られる「猫は9つの命を持っている」という伝承は起源も古く、世界各地で伝えられているものだそうだが、イギリスでは猫は魔女の使い魔であり、その体を9回まで使役できる、と説明されているらしい。そもそも、魔女は9回まで生まれ変わる事ができる、とされている。
さて、もし私達に9つの命が宿っていたとしたら、どうなっていただろうか。私はおそらく、自殺志願者が増大するのではないかと思う。9回まで生まれ変わられるという事は、9通りの人生を歩む事ができるのと同義である。私達は、人生が1回こっきりである事に常に理不尽な思いを抱いているし、そこから全ての苦しみが生まれてくる。人生が行き詰ったり、耐えられない苦しみと直面せねばならない時、人はもう1度人生をやり直せたら、と願う。本作は、生まれ変わって人生をやり直したい、という根源的な(であるが故に不可能な)欲望に囚われた人々の物語である。

主治医が映画の最後に下した決断に違和感を覚えた人も多い様だが、上記の様な観点からみれば、ある程度納得できるのではないか。