事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

モルテン・ティルドゥム『パッセンジャー』

 

惑星移住者を乗せた宇宙船の中で、機械の故障により1組の男女だけが冷凍睡眠から覚めてしまう。目的地までは後90年も航行を続けなければならないし、しかも機械の故障により、再び冷凍睡眠に入る術を彼らは失っている。と、この様な設定を聞けば、新たなアダムとイヴの物語、孤島で漂流した男女を描く『流されて…』の宇宙版だと思うだろう。しかし、本作はかなりいびつなプロットを有している。まともな観客なら、主人公クリス・プラットが劇中でとった行動に共感する事は難しいだろう。先程の例えで言えば、この映画のアダムは、恐ろしい罪を犯してイヴを手に入れるからである。そしてその過ちを、いかにもハリウッドの娯楽映画らしいヒロイックな展開によってうやむやに解消してしてしまうやり口に不潔さを覚える観客も少なくない筈だ。しかしながら、アダムの罪をイヴが受け入れた時にこそ、彼らの本当の失楽が始まるのかもしれない。そうした観点から、ラストに登場する「生命の森」に「罪」から生まれた私達の姿を重ね合わせる事も可能だろう。