事件前夜

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ポール・フェイグ『シンプル・フェイバー』

 

シンプル・フェイバー[Blu-ray]

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この映画の原作、邦題『ささやかな頼み』は、そのかつてないストーリーが評判を呼び、出版前に映画化が決定したらしい。私はこの原作を読んでいない。しかし、映画のプロットが原作に忠実だと考えるなら、どの辺が「かつてない」のか、さっぱり分からなかった。まあ、映画会社の宣伝文句を真に受けても仕方ないのかもしれないが…

劇中で示される通り、本作のプロットは アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督『悪魔のような女』を下敷きにしている。こう書くとそれじゃネタバレじゃないかと怒る人がいるかもしれないが、もちろん完全にそのまんまという訳ではない。むしろ『悪魔のような女』を観た事がある人へのミスディレクションとして、作中で持ち出されている節がある。しかし、『悪魔のような女』の人物配置や様々なエピソードを借用しているので、結局は『悪魔のような女』の派生作品という印象を拭えないのだ。堂々と元ネタの名前を明かす事で「これはパクリじゃないですよ~オマージュですよ~」と言い訳している様で、正直あまりいい気はしなかった。

本作独自の見どころを探すなら、やはり2人の女主人公ステファニーとエミリーによる丁々発止のやり取り、繰り返される騙し合いになるだろう。この展開は、クルーゾー監督によるオリジナル版『悪魔のような女』より、1996年公開のハリウッドリメイク版にその萌芽を認める事ができる。

オリジナル版『悪魔のような女』は、病弱な妻が夫とその愛人によって罠にはめられ命を落とす、という非常に救いのない話だったが、シャロン・ストーンイザベル・アジャーニという2大スターの共演作という事もあってか、ハリウッドリメイク版ではラストにアレンジが加えられ、愛人が土壇場で改心して妻を助けるという展開になっていた。このあからさまに取ってつけた様な改変はオリジナル版の雰囲気をぶち壊すものとして非常に評判が悪かった、と記憶している。しかし、このご都合主義的な展開によって、オリジナル版には無かった男に対する女たちの共闘とその勝利、というテイストが加えられたのも確かだ。

『シンプル・フェイバー』では、この関係性を更に発展させている。そこにはもはや「女を虐げる男」と「男に逆襲する女」といった構図すら存在しない。男は、女の身を飾る単なる道具として洋服やアクセサリーと同じ扱いを受けており、「女の敵」としてではなく、「いらなくなった道具」として舞台から姿を消すのである。その意味では、『ゴーストバスターズ』を女性映画としてリメイクしたポール・フェイグらしい作品と言えるだろう。

 

あわせて観るならこの作品

 

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オリジナルのホモソーシャルな価値観を否定し、メンバーを全員女性にする事で、シスターフッド映画に作り替えた一作。アクションのキレもよく、映画オタク向けの小ネタも満載、正直オリジナルより出来がいい。

 

フランスのヒッチコックとも称される、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーによる傑作サスペンス。後に、ハリウッドによってリメイクされた。