事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

キャスリン・ビグロー『デトロイト』

 

デトロイト [DVD]

デトロイト [DVD]

  • 発売日: 2018/07/04
  • メディア: DVD
 

「とにかく権力を振りかざして偉そうにしてる奴はクソ!暴動でも何でも起こして全員ブチのめすしかない!」
映画が終わった瞬間、そんな衝動に駆られ思わず立ち上がったが、周りを見回しても一緒に暴動を起こしてくれそうな人がいなかったのでおとなしく家に帰った。
キャサリン・ビグローの作品については敬して遠ざけるというか、予告編を見るだけで「まあ、立派な社会派作品なんだろうなあ…」と、何となく内容まで分かった気になりどうも観る気がしなかった。しかし、これは文句なしの傑作である。
1967年のデトロイト暴動を複数人物の視点やニュース映像を交えつつ、ドキュメンタリータッチで描いていく序盤から、徐々に主要舞台となるモーテルへ焦点を絞っていく構成である。モーテルに舞台を移してからの中盤はとにかく胸クソの悪い展開が続くが、緊張感溢れる役者陣の演技と台詞回しの上手さもあって室内劇としての面白さも確保している。もう少しカメラをグラグラ動かさずにじっくり撮ってくれたら、と思うのだが、ショット毎の完成度よりも観客を引きずり込む様な臨場感を重視する監督なのだろう。
ところで、警官たちは黒人から情報を引き出すために、ある「芝居」を仕組むのだが、この手段は映画の冒頭で既に提示されている。デトロイト警察ではこの様な脅しまがいの尋問が伝統的な捜査手法になっていた事が垣間見られるが、その警官たちが裁判にかけられるや否や、強制的な自白は証拠として採用しない、などと言い出して無罪を勝ち取るのだから皮肉な話だ。結局、法律なんて権力者どもを守るための単なる方便に過ぎないんだろうが!このクソが!