事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

アナ・リリー・アミルポール『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』

 

ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~ [DVD]

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  • 発売日: 2016/02/02
  • メディア: DVD
 

もし、この映画が90年代に公開されていたら、渋谷系カルチャーを代表する作品として熱狂的に迎えられていただろう。マリンボーダーのシャツを着た女吸血鬼は、ジーン・セバーグがイメージソースらしいが、端正なモノクロームの映像や、キッチュなストーリー展開は、ヌーベルヴァーグの作家達や、その影響下にあるジム・ジャームッシュレオス・カラックスの映画にインスピレーションを得ているに違いない。ただ、そうしたサンプリングはあくまで映画の至る所に散りばめられたファッショナブルなガジェットのひとつとして扱われており、この監督の作家性に深く根ざしたものではないのだろう。アナ・リリー・アミルポールは、ハリウッド産ホラー映画やマカロニウエスタンの筋立てを拝借し、ヌーベルヴァーグやニューヨーク・インディーズ派の映画手法を盛り込むという節操の無さを武器に、引用とオマージュの組み合わせだけでぬけぬけと長編映画を作ってしまう。遠く離れたイランで、渋谷系文化の落とし子が生まれるとは。