事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ジョー・カーナハン『炎のデス・ポリス』

70年代アクション映画へのオマージュに満ちた快作

主人公の女警官ヴァレリーが手にする44マグナム。劇中で挿入される『ダーティ・ハリー』のテーマ曲。深夜の警察署を舞台に繰り広げらる警官と殺し屋たちの攻防はジョン・カーペンター初期の傑作『要塞警察』を想起させるだろう。世界中から集まった殺し屋たちとFBIの大乱戦を描いた『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』の変奏とも言うべき本作は、70年代のアクション映画へのオマージュを詰め込みながら、クセの強すぎるキャラクターと、二転三転するコンゲーム的要素を盛り込み、最後まで飽きさせない。先行作品の引用も含めて初期のクエンティン・タランティーノを思わせる作風だが、ねじれた物語構成が特徴の『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』とは異なり、最初から最後までハイテンションで突っ走る、ストレートな語り口のクライム・アクションに仕上がっている。従って、タランティーノ作品に感じるお洒落っぽさは全く無い。観客の映画知識を試すようなスノッブさも皆無である。だからこそ、『炎のデス・ポリス』などという、ふざけた邦題を付けられてしまうのだろう。もちろん、この邦題を見て面白そうだと思い映画館にやって来る人々を、本作は十分に楽しませてはくれる。しかし、実はもう少し広い層にアピールできるものを持っているのではないか。いかにもDVDスルー作品じみた邦題やポスタービジュアルのせいで、単に下品で暴力的な映画だと偏見を持たれたのなら非常にもったいない話だと思う。
個人的に感心したのは空間の使い方である。まず、物語の主要な舞台である警察署という空間があり、その中にセキュリティロックの掛かった留置室が存在する。その留置室の中にいくつかの牢屋が設置されていて、もちろんそれぞれに鍵が掛けられている訳だ。警官や殺し屋たちは物語の推移に伴い、この3つの空間を次々と移動していくのだが、もちろん彼らは状況に応じてある空間から閉め出されたり、閉じ込められたり、あるいは自分の意志で立てこもりもする。それは駆け引きと裏切りに満ちた犯罪ドラマである本作にとって、登場人物の関係性の変化を空間配置によって示そうとする試みに他ならない。ある閉鎖された空間を「出る事」と「入る事」をめぐるせめぎ合いこそが、本作がもたらすサスペンスの肝となっている。

 

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